東京高等裁判所 昭和58年(ネ)3270号 判決
二 そこで、本件根抵当権の元本確定の有無及び被控訴人による弁済の提供の存否について検討する。
被控訴人が控訴人から昭和五六年一一月六日九〇万円、同月九日六〇万円、合計一五〇万円の本件借入金を被控訴人主張のとおりの約定で借り受けたことは、当事者間に争いがないところ《証拠》によれば、被控訴人は、本件根抵当権の被担保債務に含まれるものとして本件借入金を借り受け、約定の利息及び遅延損害金の支払をしてきたが、昭和五七年五月一二日長男の赤松茂と共に、甥の橋口弘から借り受けた一五〇万円の現金を布製手提袋に入れて携帯し、控訴人方に赴き、控訴人に対し、右手提袋を示して、同日現在の本件借入金の元本残及び遅延損害金(その合計額は一五〇万円を超えない。)の弁済にあてる趣旨で右一五〇万円の受領方を求めたこと、ところが、控訴人は、被控訴人に対し、別に無尽掛金の返還債権を含む四〇八万円の債権を有するとしてこれを先に弁済するよう要求し、右受領を拒絶したこと(以上のうち、被控訴人が約定の利息及び遅延損害金を支払ってきたこと、昭和五七年五月一二日現在の本件借入金の元本残及び遅延損害金の合計額が一五〇万円を超えないこと、被控訴人が右同日控訴人方を訪れた際、控訴人が四〇八万円の債務を先に弁済するよう要求したことは、当事者間に争いがない。)、右四〇八万円の債権は、その存否はともかくとして、本件根抵当権の被担保債権に含まれるものではなく、そのほか当時本件借入金以外には、控訴人・被控訴人間に右被担保債権に含まれる債権は存在しなかったこと、昭和五七年五月当時控訴人は、被控訴人に対し、右四〇八万円の返済を強く求める態度をとっており、もはや本件根抵当権により被控訴人に追加融資をする意思を全く有していなかったこと、一方、被控訴人も、前記のとおり同月一二日本件借入金を弁済すべく一五〇万円を持参し、これにより控訴人との間の貸借関係を清算しようとしたものであり、控訴人から更に融資を受けるつもりは毛頭なく、その後両者間に新規の金銭貸借はなされないまま、被控訴人は、控訴人に対し、同月二一日到達の書面をもって金銭消費貸借等の取引関係を継続する意思がない旨を通知し(右通知の事実は当事者間に争いがない。)、控訴人はこれに対し何ら異議を述べなかったこと、そして、被控訴人は同年一二月六日本訴を提起したこと、なお、控訴人は、これより先、前記無尽掛金の返還を求める訴えを提起し、昭和五九年三月二九日請求を棄却されたが、これを不服として控訴中であること、以上のとおり認められ<る。>
<中略>
三 右に認定した事実関係によれば、本件根抵当権は、遅くとも昭和五七年五月二一日過ぎには、被担保債権の範囲を定めた取引が実質的に終了し、客観的に見て新たに担保されるべき元本の発生を期待することのできない状態となったものというべく、右は、民法第三九八条ノ二〇第一項第一号の定める取引の終了により担保すべき元本が生じないこととなったときに該当し、右時点においてその元本は確定したものと認めるのが相当である。
(鈴木 仙田 河本)